B:改竄機械 レベルチーター
遠い宇宙の果てに、オメガを作った文明の母星があるのなら、科学技術においては間違いなく、我々を凌駕していることになる。そんな知性的な存在ならば、自らが作り上げた機械のデータを、記録していないわけがない。そして記録されたデータの改竄を防ぐ方法も検証していたはずだ!キミがそのような存在の部品のひとつでも、戦利品として持ち帰ってくれたら、ワタシは著作の売上から、一部を割いて報酬として支払うことを約束しよう!
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「分かるかね。科学はいつの時代も試行錯誤の連続なのだよ」
歴史生物学者のくせになんで科学について偉そうに語ってるんだ、などとあたしのように思ってはいけない。
あたし達はシャーレアン大学にある例の歴史生物学教授の研究室に呼び出されていた。
前回、どういったわけか惑星が一列に並ぶほどの奇跡が起きてメカドラゴンが見つかり、すっかり気を良くした教授は3日と空けずにあたし達を研究室に呼び出し、あたし達を椅子に座らせ、背中に手を回して得意気に歩き回りながら話した。
「例えばだ、先日君たちの素晴らしい働きによってメカドラゴン、オクス・レイのボディの回収に成功した。これで一定、私の仮説が裏付けされたわけだが、分解したところ驚くべきことが分かった。いや、気付いたと言った方が正確か。既に動きを停止したオクス・レイを分解し、そのパーツ一つ、一つをつぶさに観察、検討をし…」
「分からなかったのね」
あたしが口を挟んだ。
「何だと?」
「止まった機械を分解しても何も分からなかったんでしょ?」
「な…!バ…!」
教授は明らかに動揺していた。
「そうだと思ったわ。だって動かなくなった機械を分解して部品を見たってわかる事なんて素材くらいじゃない。そもそも仕組みも何も分からないんだから。欲しいのはシステムよね?」
別に確信があったわけではないが、当然のことながら何にも知識のない者がコードや基盤の集合体を見たって何かが分かるはずもない。なんとなく思ったことを言ってみただけなのだがどうやら反論できない程に的を射ていたらしい。教授は顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。
「言っただろ!科学とは常に試行錯誤なのだよぉ!」
喜び勇んで分解作業をした自分が相当悔しかったのだろう。教授の声は裏返ってしまっていた。
「だが気付きもあった!オクス・レイやオメガを作れるほどの知性的な存在ならば、自らが作り上げた機械のデータを記録していない訳がないと!科学は試行錯誤だからね!違うかね?」
教授は力いっぱい振り返りすぎて若干よろけながら力強く言った。めげない人だ。
「違うかねって言われても…」
相方がハイと手を挙げた。教授は相方を指さし発言を促した。
「オクス・レイから直接通信で記録を飛ばしていたんじゃないですか?」
ほうっと教授は感心したように目を閉じて頷きながらウムと言った。
「いい着眼点だ、だが違うな。数値データはそれで間に合うだろう。しかし主観映像ではオクス・レイ自身の動作が確認できない。よって映像を記録するユニットが他にあるはずだ」
めげない人は立ち直りも早い。どこで自信を取り戻したのかは知らないが、教授は自信満々に言った。
「よって、次の仕事はその記録ユニットの捜索と確保だ。早速で申し訳ないが、今一度ウルティマトゥーレへ向かい、記録ユニットを持ち帰ってほしい」
あたしは露骨に嫌な顔をした。彼にとってはそれが超意外だったようで、教授は思った以上にたじろいで見せた。
「嫌?嫌なのか?…わかった、じゃあ、こうしよう。記録データを持ち帰ってくれたら報酬を倍だそう。どうだ?」
あたしは嫌そうな顔のまま相方と目を合わせると小さく首を振り合った。
「あああ、わかった、わかった。今回の成果を本にしてその売上の一部を報酬として支払うことを約束しよう」
「一部?あたし達がいなきゃ何も書けないのに?」
あたしはダメモトで詰めてみた。
「不満?不満なの?ぬぅぅ‥‥ええい、半分くれてやる」
あたしはそれを書類にさせて受け取ることも忘れなかった。